眼は、健康で自立した生活を送るうえで重要な役割を担う器官です。しかし、加齢に伴って眼疾患を発症する人は増加し、継続的な治療が必要になることがあります。緑内障は、進行すると視野が徐々に失われ、失明に至る可能性もある眼疾患です。その治療では、眼圧を下げるための点眼薬が広く用いられています。しかし、点眼薬を正しく眼に入れることは、必ずしも容易ではありません。
海外の緑内障患者を対象とした調査では、正しい点眼手順をすべて行うことができた患者は、全体のわずか8.6%であったと報告されています。点眼時には、液滴が眼に入らず、頬やまぶたに落ちてしまうことや、点眼容器の先端がまぶたや顔に触れてしまうことがあります。また、高齢者や身体機能に制約のある方の中には、顔を上に向けることや、腕を持ち上げて点眼容器を眼の上に保持することが難しい場合もあります[R. Gupta et al., Journal of Glaucoma, 21(3), 189–192, 2012]。
そこで本研究では、顔を正面に向けたまま、風の力を利用して点眼薬の液滴を眼まで運ぶ自動点眼装置を開発しました(図1)。
装置の仕組み
本装置では、点眼薬容器から落下した液滴にファンで水平方向の風を当て、斜め下方にある眼まで液滴を搬送します。利用者は顔を上に向ける必要がなく、正面を向いた姿勢で点眼できます。
装置の制御には、Windows PC、プログラミング言語Python、マイコンのArduinoとC言語を使用しています。Arduinoによる主な制御内容は、次のとおりです。
- ステッピングモーターで駆動するXYステージの位置のPID制御
- 点眼薬容器を押すリニアアクチュエーターの制御
- 点眼薬容器から液滴が落下したことの検出
- リニアアクチュエーターの停止
また、CCDカメラで眼の位置を検出し、液滴に働く重力や空気力を考慮した運動方程式を数値的に解くことで、液滴の軌道を予測します。この計算には、Pythonの科学技術計算ライブラリであるSciPyを使用しています。
計算した軌道をもとに、液滴が眼に届く位置まで点眼薬容器を移動させます。その後、リニアアクチュエーターで容器を押して液滴を落下させ、ファンの風によって眼まで搬送します。

点眼試験の結果
点眼の成功率は、まぶたの開き方によって変化しました。上下のまぶたを指で開いた場合と、斜め上方に設置したLED固視灯を見て自然に眼を大きく開いた場合には、いずれも100%の点眼成功率が得られました。一方、まぶたを指で開かず、LED固視灯も使用しなかった場合の点眼成功率は81%でした。
この結果から、液滴を確実に眼へ届けるためには、点眼時にまぶたが十分に開いていることが重要であると分かりました。特に、LED固視灯を利用する方法は、まぶたを手で触れずに眼を開きやすくできるため、衛生面でも有効です。
本装置は、顔を上に向けることが難しい方や、手や腕の運動機能に制約のある方の点眼を支援できる可能性があります。今後は、より使いやすく安全な装置の実現に向けて、点眼精度や操作性のさらなる向上を目指します。
論文
道下史也,内田裕久 他,“エアー搬送を用いた自動点眼装置の開発”, 医療機器学 Vol. 95,No. 1,pp. 12–19 (2025).DOI: 10.4286/jjmi.95.12
内田裕久 他,”前向きの姿勢で使用するエアー搬送自動点眼装置:液滴の振舞い”,月刊BIOINDUSTRY Vol. 42,No. 5,pp. 8–14 (2025).
特許出願中
