光干渉断層計(Optical Coherence Tomography:OCT)は、光の干渉を利用して物体の内部構造を非接触・非破壊で観察できる画像計測技術です。眼科では網膜や前眼部の断層画像を取得する装置として広く利用されています。OCTにはいくつかの方式がありますが、現在主流となっているのは波長可変レーザを光源とするSS-OCT(Swept Source OCT)と、広帯域のSuper Luminescent Diode(SLD)を光源とするSD-OCT(Spectral Domain OCT)です。
SS-OCTは、波長を高速に掃引することで、高速かつ高分解能な断層画像を取得できるため、眼球運動などの影響を受けやすい生体計測に適しています。一方、SD-OCTは高感度な断層画像を取得できることが特長ですが、その観察深度や画像品質は、分光器の波長分解能や波長サンプリング性能に大きく依存します。また、SS-OCTは高速撮像が可能である反面、波長可変レーザを使用するため光源が高価であり、装置全体のコストが高くなるという課題があります。
そこで、本研究では、入手が容易であったSLD光源を用いたSD-OCTシステム(図1)を構築し、観察深度を高めるために、高波長分解能の分光器を新たに開発しました。
光源には、中心波長830 nm、3 dB帯域幅60 nmのSLDを用いました。SLDから出射された光は光アイソレータを通過した後、光ファイバーカプラによって参照アームと試料アームに分岐されます(図2)。各アームで反射した光は再び光ファイバーカプラで合波され,干渉光として分光器へ導かれます。また,もう一方の出力は偏光状態のモニタリングに利用できる構成としました。

参照光と試料光の干渉効率を高めるためには,両光の偏光状態を一致させる必要があります。そこで,本システムではびλ/4波長板を自動回転ステージに取り付け,偏光状態を調整できるようにしました。
各反射光および干渉光の偏光状態は,光ファイバーカプラの一方の出力をコリメートした後,自動回転ステージに取り付けたグラントムソン偏光子を介してフォトダイオードで光強度の角度依存性を測定することにより評価することができます。
分光器で取得した干渉スペクトルに対して,DC成分の除去,波数空間へのリサンプリング,および逆フーリエ変換を行うことで,深さ方向の反射強度分布を取得し、これを走査方向に並べることで断層画像を再構成します。

SD-OCTでは観察深度を向上させるために,高い波長分解能を有する分光器が不可欠です。当初は,波長範囲500~1000 nm,波長分解能0.17 nmの市販の分光器を使用していたが,十分な観察深度を得ることができませんでした。そこで,ここでは波長範囲790~890 nm,波長分解能0.07 nmの高分解能分光器を新たに設計し、製作しました。
図3に示すように、作製した分光器では,光ファイバーコネクタ(左下)から出射した光をアクロマティックレンズで平行光に変換し,透過型回折格子(840±50 nm,1200 lines/mm,22 mm角)に入射させました。回折光は2枚の平凸レンズと1枚の平凹レンズによってCMOSイメージセンサ上に結像させる構成としています。その結果,従来よりも高い波長分解能が得られることが確認できました。

構築したSD-OCTシステムを用いてセロハンテープの断面を測定しました。セロハンテープは,セロハン基材の片面に接着剤を塗布し,それを巻き重ねた積層構造を持っています。測定の結果,厚いセロハン層と薄い接着剤層が交互に積層した構造を観察することができました(図4)。約39層の積層構造が確認され,最大約1700 μm(1.7 mm)の深さまで観察ができました。
口頭発表
伊藤亮、梅村生成、内田裕久、”高分解能分光器および偏光制御機構を備えたSD-OCTの構築”、電気・電子・情報関係学会 東海支部連合大会、2026/8/30.

