日本には推定164万人の視覚障害者がおり,そのうち約18.8万人が失明,約145万人が弱視(ロービジョン)であると報告されています。また,その約72%は60歳以上の高齢者であるとされています[日本眼科医会研究班報告(2006~2008),『日本の眼科』第80巻第6号(通巻578号)付録,2009]。視覚障害には,視野の一部が欠損するロービジョンから全盲までさまざまな状態があり,日常生活や社会活動に大きな影響を及ぼします。特に,屋外や駅・商業施設などの混雑した環境では,段差や頭上の障害物,接近する歩行者や自転車などを視認することが難しく,転倒や衝突の危険性が高まります。そのため,視覚障害者が安心して移動できる支援技術の開発が求められています。
本研究では,カメラおよび3D-LiDARを用いて周囲の環境を三次元的に計測し,障害物や危険物をリアルタイムに検出する移動支援システムを開発しています。検出した情報は音声や光によって利用者へ通知し,安全な歩行や移動を支援します。将来的には装着型システムとして実用化し,ロービジョンをはじめとする視覚障害者の生活支援と移動時の安全性向上に貢献することを目指しています。
実験室内において,関心領域(Region of Interest:ROI)をLiDARからの距離0.1~2.0 m,左右約100°,上下約38°に設定しました。ROI内で検出された三次元点群データから障害物までの距離および方向をリアルタイムに算出し,危険度に応じて警告内容や音声表現を変化させます。これにより,利用者は障害物の位置や接近状況を直感的に把握します。
検証実験では,障害物として人物を用い,LiDAR正面方向の4.0 mの位置から徐々に接近させました。その際の点群データを取得するとともに,音声通知機能の動作を評価しました。
図1(a)は,人がLiDARから約3.0 m離れた位置にいる場合の三次元点群データを示しています。赤色は近距離,緑色は比較的遠距離の点群を表しており,3.0 m付近の人は緑色の点群として表示されています。また,実験室内の壁や机などの形状・位置も正しく取得できていることが確認できます。このとき人物は設定したROIの外側に位置しているため,システムは障害物なしと判断し,画面表示および音声による警告は行われませんでした。
一方,図1(b)は,人がLiDAR正面約1.0 mまで接近した場合の点群データを示しています。人物は赤色の点群として表示され,ROI内への進入が検出されます。これに伴い,ディスプレイには障害物の検出と距離1.0 mがリアルタイムに表示され,同時にスピーカーから「正面,1.0メートル,障害物」という音声が出力されることを確認しました。
これらの結果から,開発した移動支援システムは障害物までの距離および方向を正確に検出し,利用者へリアルタイムに通知できることを確認することができました。

学会発表
西田汰靖,内田裕久 他, “LiDARを用いた弱視者のための移動支援システムの試作”, 令和八年度 電気・電子・情報関係学会 東海支部連合大会, 2026/8/30-31予定.
